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岡山地方裁判所 昭和49年(ワ)487号 判決 1977年1月11日

原告

谷本雄二

被告

岡田芳男

ほか一名

主文

一  被告らは原告に対し各自金三五四万〇七六一円およびこれに対する昭和四九年四月一四日から完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告に、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、連帯して金九七〇万円およびこれに対する昭和四九年四月一四日から完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

(一)  事故の発生

1 日時 昭和四六年一月三日午後四時五五分頃

2 場所 岡山県真庭郡落合町大字垂水九六九番地先町道

3 態様 右道路を北から南へ進行していた原告運転の自動二輪車と該道路を反対方向から進行してきた被告岡田芳男(以下被告岡田という。)運転の小型貨物自動車とが衝突した。

4 被害内容 原告は本件事故により腹部打撲内出血、肝損傷、腸出血(下血)、右下腿足関節挫滅創(開放性骨折)・複雑骨折、右上膊裂創および右足背裂創の傷害をうけ、さらに右受傷のため右膝関節以下を離断し、障害等級第四級相当の後遺障害をうけた。

(二)  責任原因

1 本件事故現場は幅員三・五メートルのS字型のカーブとなつている見通しの悪い場所であるから、被告岡田は自動車運転者として前方注視を厳にして警笛を吹鳴するとともに滅速、徐行等して安全運転をなすべき注意義務があるのにこれを怠つて慢然と進行した過失により本件事故が発生したのであるから、民法七〇九条により原告が蒙つた左記損害を賠償する責任がある。

2 被告有限会社建設本多組(以下被告会社という)は、前記小型貨物自動車を所有し、これを自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条本文により、原告が蒙つた左記損害を賠償する責任がある。

(三)  本件事故により原告が蒙つた損害

1 逸失利益 金三六二〇万六六一八円

(1) 原告は、本件事故当時満一七歳の男子高校生であつて、前記受傷のため昭和四七年三月の卒業予定が一年遅れ、しかも前記後遺障害のため九二%の労働能力を失つた。

(2) ところで、昭和四六年度賃金センサスによれば、新高卒一八、一九歳の全男子平均賃金は年間金五六万七八〇〇円となるところ、原告の高校卒業が一年間遅れたことによる逸失利益額は右金額と同額であり、さらに原告の労働稼動年数を一九歳から六三歳までの四四年間として、口頭弁論終結時に近接した昭和五〇年度賃金センサス、新高卒二〇~二四歳の全男子平均賃金年間金一五五万六九〇〇円を基準として前記労働能力喪失割合にしたがい右期間における原告の逸失利益を年五分の年別ホフマン式方法によつて計算すると金三五六三万八八一八円となつて、結局原告の逸失利益額の総額は合計金三六二〇万六六一八円となる。

(3) なお、労働力の評価が年々騰貴しその騰貴が事故当時予見可能であるから、前記後遺障害による逸失利益額については、口頭弁論終結時または判決言渡時を基準として当該年度の賃金センサスに基づいて算定すべきであり、さらに原告は現在農協職員として勤務しているが、これは使用者の温情的取扱いによるものであつて将来に亘つて継続勤務および昇給の保障は充分なものではなく、これに加えて原告は自家の営業に従事できなくなつたこと等を考慮すれば、前記金額は不当なものではない。

2 療養費 金四七万二五八一円

原告は本件事故が発生した昭和四六年一月三日から同年五月二一日まで落合病院で入院治療を受け、その間左記費用を要した。

(1) 落合病院支払治療費 金三二万八五八一円

(2) 付添費 金九万円

(3) 入院雑費 金四万一七〇〇円

(4) 交通費 金一万二〇〇〇円

3 慰藉料 金三二〇万円

(1) 入院中の慰藉料 金五〇万円

(2) 前記右膝関節以下離断による将来の職業、家庭生活の不安に対する慰藉料 金二七〇万円

4 弁護士費用 金七〇万円

(四)  損害の補填

原告は自賠責保険金三六〇万一四一九円を受領しているので、右金額を原告の損害額から控除すると、残損害額は少くとも金三五九三万七三九九円となる。

(五)  よつて原告は被告らに対し各自右損害金三五九三万七三九九円の内金九七〇万円およびこれに対する被告らに対して本訴状が送達された翌日以降である昭和四九年四月一四日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する認否

(一)  請求原因(一)の事実のうち1ないし3の事実は認めるが、4の事実の傷害の部位、程度は争う。

(二)  同(二)の事実のうち、被告会社が前記小型貨物自動車を所有し、これを自己のため運行の用に供していた事実は認めるが、その余の事実は争う。

(三)  同(三)の事実のうち、原告が本件事故発生当時満一七歳の高校在学中の男子で前記受傷のため昭和四七年三月卒業の予定が一年遅れたことおよび本件事故が発生した昭和四六年一月三日から同年五月二一日まで落合病院で入院治療を受けたことは認めるが、その余の事実は争う。

(四)  同(四)の事実のうち、原告が自賠責保険金三六〇万一四一九円を受領したことは認めるが、その余の事実は争う。原告は自賠責保険金として右金額を含めて合計金三九三万円を受領しているので、同金額を控除すべきである。

(五)  本件事故の発生について、被告岡田にはなんらの過失もない。すなわち、被告岡田が前記小型貨物自動車を運転し、本件道路左側にあつたリヤカーを追越すため時速約三〇キロメートル弱に減速して進行していたところ、反対方向から原告が該道路を時速約四〇キロメートルの速度で安全を確認することもせず漫然とカーブを曲ろうと進行してきたため、被告岡田車を発見して急制動の措置をとるも間に合わず、原告車はスリツプしながら後輪を横に振り不安定な状態で被告岡田車前部右側に衝突したが、衝突当時、被告岡田車は既にハンドルを左に切り道路左側に寄つて殆んど停止状態にあつた。してみれば、本件事故は、原告が幅員三・三メートルの見通しのきかないカーブを減速、安全確認をなさずに時速約四〇キロメートル以上で進行した過失によつて発生したものである。

三  抗弁

(一)  被告会社の免責の抗弁

本件事故の状況は前記のとおりであつて、本件事故発生につき運転者たる被告岡田には過失はなく、また被告会社は前記小型貨物自動車の運行に関して注意を怠らなかつたし、さらに右事故発生当時右自動車にはなんら構造上の欠陥も機能上の障害もなかつたので、被告会社は自賠法三条但書の規定により損害賠償義務を負わない。

(二)  時効の完成

1 原告が本訴を提起した昭和四九年四月五日においては、既に原告の親権者である両親およびその代理人である訴外杉本信正らが、本件事故の加害者および損害を知つた日である本件事故発生当日の昭和四六年一月三日から三年を経過しているから被告らの責任は時効によつて消滅しており、被告らは本訴において右時効を援用する。

2 仮にそうでないとしても、原告が右下腿ガス壊疽のため右膝関節以下離断手術を受けたのは昭和四六年一月二三日であつて、その後右症状は徐々に軽快していたのであるから、右同時点で右膝関節以下離断に基づく逸失利益および精神的苦痛等の損害の発生を予見することが社会通念上可能であつたといえるので、本件損害賠償請求権の消滅時効は遅くとも右同日から進行を開始し、本訴が提起された昭和四九年四月五日には既に右同日から三年を経過し消滅時効が完成しているので本訴において右時効を援用する。

(三)  過失相殺

前記のように本件事故の発生については原告にも過失があり、かつその過失は大きいので、原告の損害額の算定に当つてはこれを斟酌すべきである。

四  抗弁に対する原告の認否

(一)  抗弁(一)の事実はすべて争う。

(二)  同(二)の事実のうち、本件事故が昭和四六年一月三日に発生したことおよび原告が右膝関節以下離断手術を受けたことは認めるが、その余の事実は争う。

(三)  同(三)の事実は争う。

五  原告の再抗弁

(一)  被告岡田、同被告の父、被告会社代表者本多二郎は昭和四六年一月二三日原告の代理人杉本信正(原告の伯父)に対し、本件事故による損害賠償債務の一部を承認した。

(二)  被告岡田の父、被告岡田の代理人木元某、被告会社代表者本多二郎は昭和四六年八月一五日頃原告の母および原告の代理人杉本信正に対し、本件損害賠償債務の額については検討するが、右債務の存在は認めて、債務を承認した。

(三)  原告代理人野中武祥は昭和四八年三月二七日到達の内容証明郵便で、被告会社に対して本件事故の損害金の内金として金七〇〇万円を請求したところ被告会社の代理人横林弁護士は同年四月九日、右原告代理人に対し右請求の訴訟事件にしてほしい旨の電話回答をし、本件損害賠償債務を承認した。

六  再抗弁に対する被告らの認否

再抗弁事実はすべて否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の発生

請求原因(一)の1ないし3の事実は当事者間に争いはなく、成立に争いがない甲第二号証の一、二と原告本人尋問の結果を総合すると、原告は本件事故により腹部打撲内出血、肝損傷、腸出血、右下腿足関節挫滅創(開放性骨折)、複雑骨折、右上膊裂創、右足背裂創の傷害をうけ、さらに右傷害による右下腿ガス壊疽のため右膝関節以下切断(離断)したことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

二  責任原因

本件事故当時被告岡田が小型貨物自動車を運転していたことおよび被告会社が右自動車を所有しこれを自己のため運行の用に供していたことは当事者間に争いがないので、免責事由がない限り、被告会社は右自動車の運行供用者として本件事故によつて生じた人身損害を賠償する義務を負わなければならず、以下被告岡田の過失の有無および被告会社の免責の抗弁について判断する。

成立に争いのない乙第一、第二号証、原告、被告岡田の各本人尋問の結果を総合すると、被告岡田は本件事故現場附近の道路の略中央附近を小型貨物自動車(幅一・六九メートル)を運転して時速約三〇キロメートルで南から北に向けて進行してきたが、同道路は交通量閑散な幅員三・三メートルのアスフアルト舗装の道路で南から北西に向けて湾曲して所謂カーブとなつており、しかも該道路の両側には居宅または作業用小屋等が建つているため見通しの悪い場所であるから、運転者としてはカーブの相当手前から絶えず前方を注意するのは勿論のこと、できる限り道路の左側に寄りながら、不意に車が進路の前方からでてきたときは直ちに停車しうるように減速徐行して進行すべきであるのに時速約三〇キロメートルの速度で漫然と略道路中央附近を進行したため、前方約三三・四メートル附近の道路右側を反対方向から進行してくる原告運転の自動二輪車を発見して直ちに急停車の措置をとつたが約七・二メートルスリツプし道路中央附近で車体右前部附近と自動二輪車が衝突したこと、他方原告は自動二輪車を運転し、該道路中央より左側部分を時速約四〇粁で南進し、前記見通しの悪いカーブを廻り切つたところで進路前方から進行してくる小型貨物自動車を発見し、直ちに急停車の措置をとつたが約一二・五メートルスリツプして道路中央附近で衝突したことが認められ、乙第一号証、原告、被告岡田の各本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は容易に信用し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

ところで、道路有効幅員が狭く、かつ道路が湾曲して所謂カーブし見通しの悪い場所にあつては、運転者としてはできる限り道路の左側によりながら、不意に車が進路前方からでてきても直ちに停車し得るように減速徐行して進行すべきであるところ、右認定事実によれば、被告岡田および原告はともに減速徐行の措置をとらず、被告岡田においては時速約三〇キロメートルで道路略中央附近を、原告においては時速約四〇粁で道路中央よりやや左側部分を進行したため本件事故が惹起したものであることが明らかであるから、前記小型貨物自動車を運転していた被告岡田にも過失があるというべく、したがつてその余の点を判断するまでもなく免責事由は存しないものといわざるを得ない。

よつて右抗弁は採用できない。

そうすると、被告岡田は直接の加害者として民法七〇九条により、被告会社は前記自動車の運行供用者として自賠法三条本文により原告が蒙つた左記損害を賠償する責任がある。

三  原告が蒙つた損害

(一)  逸失利益

成立に争いがない甲第二号証の一、二、甲第五号証、証人谷本守代の証言原告本人尋問の結果と弁論の全趣旨を総合すると、原告は昭和二八年六月二八日生の健康な男子で、本件事故発生当時は岡山県立久世高等学校農業科二年に在学中であつたが、本件事故による前記傷害のため昭和四六年一月三日から同年五月二一日まで岡山県真庭都落合町垂水二五一落合病院に入院し、右入院中に右膝関節以下を離断(切断)したが、右退院後直ちに岡南荘に転院し右大腿義足を製作して同年七月三一日まで同荘で機能回復訓練をうけたため、右学校を一年間余り休学したこと、右休学のため昭和四七年三月の卒業予定が一年間遅れ、昭和四八年三月に卒業することになり、原告は昭和四七年三月の卒業とともに就労し得たところ、前記傷害のため、就労が一年間遅れることを余儀なくされたものと認められる。

ところで、労働省昭和四七年度賃金構造基本統計調査報告(所謂賃金センサス)によれば、新高卒一八、一九歳の全男子平均賃金は原告主張の年間五六万七八〇〇円を下廻らないことが認められるので、原告が一年間就労することが遅れたことによる原告の損害は金五六万七八〇〇円となる。

つぎに後遺障害による労働能力喪失の逸失利益について検討する。

前記認定事実によれば原告は前記傷害により右膝関節を離断(切断)したことが認められ、右障害の程度は、自賠法施行令別表の第四級に該当し、これに労働基準局長通牒(昭和三二年七月二日基発第五五一号)による労働能力喪失率表を参照すればその労働能力喪失率は九二%ということになる。

しかして、原告本人尋問の結果によれば、原告は農業協同組合に勤務して企画調査関係の事務に従事し、他の同僚と同一程度の給料を得ているが、義足のため自己所有の自動車以外は運転することはできず、同僚に比較して種々勤務上の不便を蒙り、しかも将来父母の農耕(田圃四五アール)を継ぐことは極めて困難となつたことが認められるので、右各事実を総合判断すれば、原告がその稼働全期間を通じて前記障害によつて蒙つた現実の減収額を予測確定することは困難であるが、原告の前記職種とその給与額、前記障害の程度と労働能力喪失率表による喪失率等を勘案して、原告はその稼働全期間を通じて全男子労働者の平均給与の五〇%の利益を喪失したものと解するのが相当である。

ところで労働省昭和四八年度賃金センサスによれば、パートタイム労働者を含む全男子労働者の年間平均賃金は金一六二万四二〇〇円(月額金一〇万七二〇〇円、年間賞与金三三万七八〇〇円)であつて、その五〇%は金八一万二一〇〇円となり、原告の就労可能年数は昭和四八年四月以降同人が六〇歳に達するまでの四〇年間として、原告の逸失利益現価を年利五分の年別ライプニツツ式方法により計算すると

812,100円×171,590=13,934,823円(算式中171,590は40年のライプニツツ係数で算定結果は円未満切捨)

となり、その現在額は金一三九三万四八二三円であつてこれが原告が前記後遺障害によつて失つた得べかりし利益の額となる。

(二)  療養費

1  落合病院支払治療費

成立に争いがない甲第三号証の一ないし三と前記認定事故によれば、原告は前記傷害のため落合病院に入院し、治療費として金三二万八五八一円を支払つたことが認められる。

2  付添看護費

成立に争いがない甲第二号証の一によれば、前記入院期間中原告の付添看護を必要とした期間は四五日間であることが認められ、証人谷本守代の証言によれば原告の近親者が交替で付添看護したことが明らかであるから右四五日間を通じて一日金一二〇〇円の付添看護費を要したものと認めるのが相当であるから、計金五万四〇〇〇円をもつて本件事故と相当因果関係のある損害とする。

3  入院雑費

原告の傷害の程度、態様に照らすと前記入院期間一三九日(昭和四六年一月三日から同年五月二一日まで)を通じて一日金三〇〇円の諸雑費を要したものと認めるのが相当であるから

300円×139日=41,700円

計金四万一七〇〇円となる。

4  交通費

証人谷本守代の証言によれば、原告の母谷本守代が原告の入院中付添のため自宅から落合病院に往復するため、バス代、タクシー代を支出したことは認められるが、本件全証拠によつてもその額を確定することはできないので、交通費に関する原告の主張は採用できない。

(三)  慰藉料

前示本件事故の態様、原告の受傷の程度とその後遺障害、原告の年齢等諸般の事情を考慮すると、原告が本件事故によつて蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料の額は金三〇〇万円をもつて相当とする。

四  過失相殺

前記二で認定した本件事故の態様に照らすと、本件事故の発生について原告にも過失があることが認められ、その過失割合は原告六割、被告岡田四割と認めるのが相当である。

そうすると前記損害額合計金一七九二万六九〇四円の四割である金七一七万〇七六一円(円未満切捨)が原告の損害額となる。

五  損害の補填

成立に争いがない甲第四号証の一、二によれば、原告は本件事故による自賠責保険金として後遺症分も含めて合計金三九三万円を受領したことが認められる(なお右金額のうち金三六〇万一四一九円の範囲内では当事者間に争いがない)ので、右金額を控除すると残額は金三二四万〇七六一円となる。

六  弁護士費用

本件事案の難易、訴訟の経過、原告の請求額、認容額、その他諸般の事情を考慮すると、被告らに負担さすべき弁護士費用は金三〇万円とするが相当である。

七  そうすると、被告らは各自原告に対して金三五四万〇七六一円およびこれに対する本訴状が被告らに送達された翌日以降である昭和四九年四月一四日から完済にいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負担することになる。

八  消滅時効の抗弁と時効中断の再抗弁

原告が本訴を提起した昭和四九年四月五日においては既に被害者の原告が本件事故の加害者および損害を知つた日である本件事故発生日の昭和四六年一月三日から三ケ年を経過していることは本件記録上明らかである。

しかし、証人杉本信正、同谷本守代、同木元熊二の各証言を総合すると、昭和四六年八月頃原告の母谷本守代、原告の代理人杉本信正(原告の叔父)と被告岡田の父岡田時夫、同被告の代理人木元熊二、被告会社代表者本多二郎が木元熊二方に参集し、その席上で、原告代理人らに対して、被告会社代表者は、損害金を支払わなければならないことは認めるが、被告側が全面的に悪いかどうかが判らないので、まず保険金で支払い、残額はできる限りの範囲内で協力すると述べ、さらに被告岡田の代理人も、或る程度の金額であれば支払うことはできるが、多額の賠償金は支払う余裕がないと述べて、被告らはいずれも、その賠償額はいまだ確定的に表示しなかつたが、少くとも損害賠償債務の一部については債務を承認したことが認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

右事実によれば、原告の被告らに対する本件損害賠償請求権の消滅時効は昭和四六年八月頃における被告らの右債務の一部承認により中断され、いまだ完成しないものというべきである。

九  結論

そうすると原告の被告らに対する本訴請求は前記七認定の限度において正当として認容し、その余は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 西内英二)

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